高力ボルト摩擦接合のメカニズムを実験的に明らかにするために,軸力が加わったときの母材と添え板との接触面の摩擦係数を求める実験を行い,その上で高力ボルト摩擦接合と同じ形式による実験を行い,高力ボルト摩擦接合への理解を深める。
ベニヤ板の両面にケント紙及びサンドペーパーを貼り付けた容器台を,ベニヤ板にケント紙を貼った滑り台の上に置く。容器台にばねばかりを取り付け,1〜13Nまでのおもりを用意し2Nごと重りを変えていき容器を引っ張り各おもりごとの滑り出し時の荷重を測定する。以下の実験を,容器台にケント紙を用いた場合と,サンドぺーパーを用いた場合について行う。図5.1に実験機材の形状を示す。
ここで摩擦係数μ=引張力の平均値(N)/軸力(N)で表される。
図5.1 実験機材の形状
実験結果を,表5.1に示し,そのグラフを図5.2に示す。
表5.1 軸力と摩擦係数
図5.2 各種母材の軸力と摩擦係数の関係
ケント紙,サンドペーパーとも,軸力が大きくなると摩擦係数μは小さくなる傾向が見られる。ケント紙のような表面の滑らかな母材は一定の軸力を超えると摩擦係数はほぼ一定になる事が分かる。
高力ボルト摩擦接合と同じ形式による実験を行い,高力ボルト摩擦接合への理解を深める。
ケント紙を図5.3のように切り取り試験体を作成し,試験体に徐々に荷重を加えてケント紙の場合とサンドペーパーの場合の滑り荷重と破壊時の荷重を測定する。図5.3にケント紙による試験体形状を示す。
図5.3 ケント紙による試験体形状
実験結果を表5.2に示す。
表5.2 実験結果と計算結果の比較
実験値のすべり荷重を比べてみると,ケント紙とサンドペーパーでは2倍以上の違いが見られた。しかし最大荷重を比べてみると少しの差しか現れていない。最大荷重は摩擦係数にあまり関係なくほぼ一定であった。このことから,最大耐力は母材の破断で決定する場合,摩擦面に関係ないことが分かる。高力ボルト摩擦接合部は接合される面を粗くすることで高い摩擦力を得ることができ,接合部に滑りを生じさせないよう設計する事が重要である。